代理の4つの落とし穴をまとめて確認する【令和8年度本試験 問7】
令和8年度本試験の問7は、代理に関する4つの記述について、誤っているものの数を答える問題でした。正解は「四つ」、つまり4つの記述がすべて誤りでした。宅建BOOSTで自己採点した会員11名のうち、正解した人は0名(0%)でした。選ばれた番号を見ると、「一つ」が1名、「二つ」が9名、「三つ」が1名で、9名が「二つ」に集まっています。
個数を答える問題では、4つの記述の正誤を、互いに切り離して1つずつ判定する必要があります。「全部が誤り」という答えは選びにくく、2つか3つあたりに落ち着かせたくなる心理が働いたのかもしれません(これは宅建BOOSTの推測です)。ここでは、問われた4つの論点を、条文と判例に沿って整理します。条文は令和8年4月1日現在のものです。
■ 論点A 双方代理は原則として禁止、ただし登記申請は例外
同じ法律行為について、相手方の代理人として、または当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなされます(民法第108条第1項本文)。ただし、債務の履行と、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではありません(同項ただし書)。
不動産の登記の申請は、すでに成立している契約の内容を実現する手続き、つまり債務の履行にあたると考えられています。そのため、売主側と買主側の両方の代理人を、同じ人が務めて登記を申請できます。実務で、司法書士が売主と買主の両方から依頼を受けて登記を申請するのが、この例です。原則だけを覚えて、ただし書の例外を落とすと、ここで誤ります。
■ 論点B 復代理人が受け取った物は、誰に渡すか
復代理人は、その権限の範囲内で、本人および第三者に対して、代理人と同一の権利を有し、義務を負います(民法第106条第2項)。このため、復代理人は、相手方から受け取った物を本人に引き渡す義務を負います。
見落としやすいのは、代理人との関係です。判例は、復代理人は本人だけでなく代理人に対しても受領物を引き渡す義務を負い、代理人に引き渡したときは、本人に対する引渡義務も消える、と考えています。本人への義務だけがあって代理人への義務はない、という整理は誤りです。この論点は条文だけでは判断できず、判例の知識が必要です。
■ 論点C だまされたかどうかは、誰を基準に判断するか
代理人が相手方に意思表示をしたとき、その効力が、意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫などによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決めるとされています(民法第101条第1項)。意思表示をしたのは代理人だからです。本人を基準にするのではありません。
反対側にも注意が必要です。特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自分が知っていた事情について、代理人が知らなかったと主張することができません(同条第3項)。代理人を基準にするという原則に、本人の側からの例外が加わる形です。
■ 論点D 無権代理の相手方が催告して、返事がなければどうなるか
代理権のない人が他人の代理人を名乗って契約を結んだ場合、契約の相手方は、本人に対して、相当の期間を定めて、追認するかどうかを答えるよう催告できます。本人がその期間内に答えなければ、追認を拒絶したものとみなされます(民法第114条)。
理由は、無権代理行為の効果は、本人が追認して初めて本人に及ぶからです。何もしなければ効果は及ばない、という方向で考えると、みなされるのは「拒絶」の側だと整理できます。「黙っていると認めたことになる」という日常の感覚をそのまま持ち込むと、ここで誤ります。
■ 4つの論点を一言でまとめる
・双方代理 → 原則は無権代理とみなされる。ただし債務の履行(登記申請など)と本人の許諾は例外
・復代理 → 本人と第三者に対して、代理人と同一の権利義務。受領物は代理人に渡しても本人への義務が消える
・代理行為の瑕疵 → 事実の有無は、原則として代理人について決める
・無権代理の催告 → 返事がなければ、追認を拒絶したものとみなす
正解の番号は各校の解答速報で確認したもので、公式の正解は令和8年11月25日の合格発表で確定します。
■ 個数問題で崩れないために
「いくつあるか」を問う問題は、まず4つの記述に、正しい、誤りの印を1つずつ付けます。数えるのは最後です。最初から「だいたい2つだろう」と見当をつけると、判断があいまいな記述を、その数に合わせて処理してしまいがちです。今回のように4つすべてが誤りという出題も、すべてが正しいという出題も、起こりえます。
代理は、権利関係の中でも、原則と例外がセットになった規定が多い分野です。条文を覚えるときは、「原則」「例外」「みなされる結果」の3点を、1組にして整理しておくと、個数問題でも落ち着いて判定できます。
宅建BOOSTでは、令和8年度本試験の論点をもとにしたオリジナル問題で解き直せる「REVENGE」機能を、令和9年度版で提供する予定です。
よくある質問
無権代理の相手方が催告しても本人が答えない場合、追認したことになりますか。
なりません。民法第114条により、本人が期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなされます。追認があって初めて、無権代理行為の効果が本人に及びます。
登記の申請で、同じ人が売主側と買主側の双方の代理人になれますか。
なれます。双方代理は原則として無権代理行為とみなされますが、債務の履行は例外とされています(民法第108条第1項ただし書)。登記の申請は債務の履行にあたると考えられています。