所有者不明土地管理命令と管理不全土地管理命令の違いを整理する【令和8年度本試験 問1】

公開: 2026-10-25 ・ 宅建BOOST 編集部

令和8年度本試験の問1では、所有者がどこにいるか分からない土地と、所有者による管理が行き届いていない土地について、裁判所が管理人を選んで管理させる制度が問われました。令和3年の民法改正で設けられた制度で、権利関係の最初の問題として出題されています。

宅建BOOSTで自己採点した会員11名のうち、この問題に正解したのは2名(18%)でした。選ばれた番号は、1が3名、2が3名、3が2名、4が3名で、ほぼ均等に散らばっています。特定の記述が極端に紛らわしかったというより、制度の輪郭がつかめないまま選んだ人が多かったのではないか、と宅建BOOSTでは見ています(これは推測です)。この記事では、2つの管理命令を並べて、迷いやすい点を整理します。条文は令和8年4月1日現在のものです。

■ 2つの命令は「所有者が分かるかどうか」で分かれる

名前が似ているので混ざりやすいのですが、入口の条件がはっきり違います。

所有者不明土地管理命令(民法第264条の2)は、所有者が誰か分からない土地や、所有者の居場所が分からない土地が対象です。本人に連絡がつかない場面を想定した制度です。

管理不全土地管理命令(民法第264条の9)は、所有者は分かっているものの、その管理が不適当なために、他人の権利や法律上保護される利益が侵害されている、または侵害されるおそれがある土地が対象です。たとえば、崩れかけた擁壁や放置された樹木が、隣の土地に被害を及ぼしそうな場面が想定されます。

どちらも、裁判所が必要と認めたときに、利害関係人の請求を受けて命令を出し、命令の中で管理人を必ず選任します。ここまでが共通の骨組みです。

■ 管理人が裁判所の許可なしにできること

所有者不明土地管理人が選ばれると、対象の土地を管理し、処分する権利は、管理人に専属します(第264条の3第1項)。所有者本人ではなく、管理人が動く形になります。

ただし、何でも自由にできるわけではありません。裁判所の許可がなくても行えるのは、次の範囲です(同条第2項)。

・保存行為(土地の現状を守るための行為)

・土地の性質を変えない範囲での、利用や改良を目的とする行為

この範囲を超える行為、たとえば土地の売却のような処分には、裁判所の許可が必要です。許可がなかったことは、善意の第三者に対抗できません。

管理不全土地管理人も、管理と処分の権限を持ち(第264条の10第1項)、許可なしでできる範囲は同じく、保存行為と、性質を変えない範囲の利用・改良です(同条第2項)。なお、許可がなかったことを対抗できない相手は、こちらでは「善意でかつ過失がない第三者」と書かれており、言葉が少し違います。

■ 管理不全土地の処分には「所有者の同意」が加わる

2つの制度で違いが出るのは、土地を処分する場面です。管理不全土地管理命令の対象になった土地について、裁判所が処分の許可をするには、その所有者の同意がなければなりません(第264条の10第3項)。

所有者不明の場合は、同意を取るべき本人が分からないので、この同意の要件は置かれていません。これに対して管理不全の場合は所有者が存在しているので、本人の財産を、本人に断りなく手放させることはできない、という考え方です。

■ 共有者の一部が分からないとき

土地が共有で、共有者の一部が誰か分からない、または居場所が分からないという場合は、その人の共有持分を対象にして、所有者不明土地管理命令を出すことができます(第264条の2第1項のかっこ書き)。

ここで混同しやすいのが「10年」という数字です。相続開始の時から10年を過ぎた後の遺産分割では、特別受益や寄与分の規定が原則として適用されない、という別の規律があります(民法第904条の3)。10年という数字が出てくるのは、こちらの話です。所有者不明土地管理命令の条文には、相続から一定の年数がたっていることを求める要件はありません。似た場面で出てくる数字を、別の制度にまで持ち込まないようにしましょう。

■ 請求できるのは「利害関係人」

条文は、どちらの命令についても「利害関係人の請求により」と定めています。公益性の高い制度ではありますが、請求できる人の範囲には限定があります。土地の管理について利害関係を持つ人であることが前提で、これに当たるかどうかは裁判所が判断します。請求できる人の範囲を広く言い切る記述が出てきたら、いったん疑う習慣をつけておくと安全です。

■ 要点を一言でまとめる

・管理人が許可なしにできること → 保存行為と、性質を変えない範囲の利用・改良

・管理不全土地の処分 → 裁判所の許可に加えて、所有者の同意が必要

・共有者の一部が不明のとき → その人の持分を対象にできる。相続からの年数の要件はない

・誰が請求できるか → 利害関係人

正解の番号は各校の解答速報で確認したもので、公式の正解は令和8年11月25日の合格発表で確定します。

■ 迷ったときの覚え方

「所有者に聞けるかどうか」で考えると整理しやすくなります。所有者不明土地では、本人に聞こうにも聞けないので、裁判所の許可で足ります。管理不全土地では、本人がいるので、処分には本人の同意が必要です。どちらにも共通するのは、保存行為と、性質を変えない範囲の利用・改良は許可がいらない、という線引きです。

宅建士の仕事でも、相続の手続きが済んでいない土地など、権利者がはっきりしない物件に出会うことがあります。制度の名前だけでなく、誰が動き、どこで裁判所や所有者が関わるのかを、流れとして押さえておくと、似た形の問題にも対応しやすくなります。

宅建BOOSTでは、令和8年度本試験の論点をもとにしたオリジナル問題で解き直せる「REVENGE」機能を、令和9年度版で提供する予定です。

よくある質問

所有者不明土地管理命令は、誰でも裁判所に請求できますか。

できません。民法第264条の2は、利害関係人の請求により命令をすることができると定めています。土地の管理に利害関係を持つ人であることが前提で、該当するかどうかは裁判所が判断します。

管理不全土地管理人は、裁判所の許可だけで土地を処分できますか。

できません。民法第264条の10第3項により、土地の処分の許可をするには、その所有者の同意が必要です。所有者不明土地管理人の場合は、同意を取るべき所有者が分からないため、この同意の要件は置かれていません。

共有者の一部の所在が分からない場合も、所有者不明土地管理命令の対象になりますか。

なります。共有者を知ることができない、またはその所在を知ることができない場合には、その人の共有持分を対象にして命令を出すことができます(民法第264条の2第1項)。相続から一定の年数がたっていることを求める要件は、条文にありません。

出典・参考